田村麻実さん:ワーホリ中につかんだパン修行の道
「ドイツパンが大好き
」その一心でドイツへのワーキングホリデーを決めた田村麻実さん。
なんと、パン屋さんでの就業経験はないにも関わらず、ワーキングホリデー中に憧れのドイツのパン屋さんでのアウスビルドゥングのチャンスをつかみ、ハンブルク近郊の町アーレンスブルク(Ahrensburg)にて修行中です。
お話を伺った5月末の某日。偶然にも、正にインタビュー当日に修行先のマイスターからアウスビルドゥングとしての受け入れ許可をもらえたという劇的なタイミングでした。興奮冷めやらぬ状況で、どうやってアウスビルドゥングが決まるに至ったのか、葛藤と努力の道のりを伺いました。
苦しくても自分に向き合い続けること、とにかく行動してみること、その姿勢が目標を叶える秘訣なのだということ、とても勇気をもらえる内容です!
ドイツに来て早々ぶち当たった壁
まず、私がドイツに来た理由。昔からドイツが気になっていて、ワーホリがとれる年齢もギリギリになってきたのでというタイミングで。
ドイツパンが大好き、サッカーが大好き、環境先進国で人々がどういう風に生活しているのかを知りたい、というのが理由です。
語学学校で最初に自己紹介で名前、国、年齢、これまでどんな学校に通ってたとか、仕事をしていたか、ドイツで何をしたいのか、ということを話す機会がありました。
クラスメイトたちはみんな、「この大学のこの学科にいってこの勉強がしたいからドイツに来て語学学校でドイツ語を勉強するんだ」とか「ドイツの〇〇に興味があって、将来に繋げていきたいからドイツ語をやらなくちゃいけない」とか具体的に話していて。
でもいざ自分の番になったときに、「えっ、私がやりたいことって何だろう」と自分が自信を持ってみんなの前で話すことができないことにすごくショックを覚えました。
それでもありのままに「ドイツが好きだから来ました」と言ったんですけど「へぇ面白いね」って言われるだけで、そこから話が繋がりにくくて。
「自分も何か一本にやりたいことを絞らなくちゃいけないんだな」というのを痛感して、夏にドイツに来てからずっとそれを考えていました。
半年後にやってきた転機
ドイツに来て半年くらいの時に語学学校の先生と合わなくて、学校を辞めようか考えたときに、再び自分はこの先どうしたいのかと向き合うことになりました。
「何がやりたくて学校にいるんだろう。」やりたいことによっては学校を続けてドイツ語のレベルを上げるべきだし、夢によってはもうドイツ語がいらない場合もある。
このままドイツに居たいのであれば
ドイツに来るまでアウスビルドゥングという制度を知りませんでしたが、パンをやりたいのであればアウスビルドゥングの制度に進むということが分かりました。
一方で環境についてやるとなると、大学で学ばないと仕事には繋がっていかないだろうなと。ただ、私はドイツで大学に入るための条件を満たしていないので、ドイツで大学に入るためには一旦日本の大学で単位をとらなければいけない。時間とお金がかかりすぎます。
パンの道に進んでからほかのやりたいに繋げていくこともできるんじゃないかと考えて、パン一本に絞ろうと決めました。それが12月の終わり頃のことです。
パン屋の修行先を探し、シュトゥットガルトでの出来事
ビザの滞在期間も残り半分になり、今から探して色々なベッカライ(パン屋さん)に応募のメールを送ろうと思いました。
ドイツに来る前に一番興味があった土地は、フライブルクやシュトゥットガルトなどの南の方だったので、学校を1週間休んでシュトゥットガルトとフライブルクに行きました。
シュトゥットガルト近郊に、大好きなリッターチョコの博物館があることを知ってそこに行ったときに思いがけない出来事が起きたんです。博物館が開くまでに時間があったので、近くのパン屋さんに入った時のことです。パン好きとしては南ドイツのパンも食べなくてはと。
そこのパンがすごくおいしくて!思わず「ここでアウスビルドゥングをやりたいです!」ということをそのパン屋さんに言ったんです。
そうしたら店内で朝食を食べていた地元のおばあさん2人がそれを聞いていて「あなたここでやるべきじゃないわ。この店じゃ小さすぎるわよ。もっと大きいチェーン店に行きなさい」と言われて。
更におばあさん2人がスマホを調べ始めて「ここが私が一番好きなパン屋なんだけど、大きいしいいと思うの。あなた今時間ある?これから行くわよ!」と、急遽おばあさんの車に乗せられて、おすすめのパン屋さんまで連れていってくれました。
おばあさんの取り次ぎもあって、そこのパン屋さんのチーフの名詞をいただきブレーメンに帰ってから改めてメールを送ったところ「プロべアルバイト(見習い)で1日体験してみて決めてあげる」と返事をいただきました。
それが3月はじめのことです。返事をもらった翌日には再びシュトゥットガルトに向かい、初めてのパン屋さんでの職業体験です。
大型チェーン店での初のパン屋就業体験
プロべアルバイトでは面接をしてから一晩働いてみました。パン屋さんなので夜12:00からの仕事です。
そこは大きなパン屋さんだったので工場で、30人くらいのゲゼレ(パン職人)が働いていました。手作業ではなく、機械で流れてきた生地をただ成型するだけといった工場勤務のようでした。
そんな単純作業を見て「いくら大好きなドイツパンとはいえ、美味しいパン屋さんとはいえ、こういう大きい所だったら日本でもできるじゃん」というのが素直な感想でした。
先方からは「ここでアウスビルドゥングしてもいいよ」と言ってもらえましたが、断りました。
偶然出会ったおばあさんのおかげで、大きなパン屋さんは私がやりたいもとは違うということが分かり、それをきっかけに目指すのはビオのパン屋さんに絞ることができました。
ドイツにしかできないパンといったら、小さなパン屋さんでデメターやビオのパンなので。それがいいと思いました。
パン屋への応募の日々からつかんだチャンス
そこからは新たにパン屋さんについて調べ始めました。
私はパン屋さんで働いたこともないし、家でパンを焼いたことすら1、2回しかない。ただパンを食べるのが好き、ドイツパンが好き、ライ麦パンが好きっていうただのパン好きな人だったので、どうやって仕事に繋げたらいいんだろうというのは本当に悩ましかったです。
パン屋としての経験がないので、履歴書のカバーレターにも書けることがありません。1枚の紙に、「ドイツのパンがこんなに大好きでドイツにきました」というただのパン好きアピールを書いていました。ただ、それではドイツ人には負けてしまうし、こんな日本の未経験者からメールがきても採用してもらえる確率も少ないだろうと思いました。
そこで、ネットで、ドイツでパンのマイスターになっている日本人はいないか調べたところ、日本の企業向けに短期のベッカライ研修等のコーディネートをしている女性を見つけることができました。
ただ、その方は現在企業向けにしか対応していなくて、「個人からの問い合わせはやめてください」ときつめに書いてありました。でも「もう恥かいてもいいや!」ってメールを送りました。
1カ月ほどしてから忘れかけていたころに返事が来て「ちょうどこの間、募集しているパン屋さんがあるという事を聞いたのですが、本当は個人相手の紹介は取り扱っていないけれどもしよかったら」という連絡がきたんです!「どこでもいいのでぜひ教えてください!」といって決まったのが、グレーミッツ(Grömitz)というすごい田舎町のパン屋さんです。バルト海まで歩いて30分くらいの、ドイツ人たちが休暇に来る町です。
今回はビオのパン屋さんです。
私はまだパン屋未経験でこの職業に合っているかも分からないので、まずは2カ月間プラクティクム(実習)をできることになりました。2カ月働いてみてよかったらアウスビルドゥングできる可能性もあるということだったので、ものすごく喜びました。
ところが、プラクティクムを初めて少し経った頃、ここには今年のアウスビルドゥングの空きはないということが分かりました。当初の話とは違うのでかなりショックを受けました。
ですが、
グレーミッツでの田舎生活
グレーミッツでは住み込みで3食ご飯も提供される生活でした。従業員たちがみんな一緒に住んでいて、田舎なので(こういう言い方が正しいかわかりませんが)血の混じっていないドイツ人がほとんでした。
朝昼晩とドイツ料理が提供されるのですが、みんな体が大きいから食べる量もすごくて、私も同じ量を食べていたら2カ月でびっくりする位太っていったんです!いくらパンが好きとはいえ、生活が合わなくて体の危機を感じました。
でも、グレーミッツで出会った人たちは今までに出会った外国人のだれよりも優しかったです。行ったその日から家族の一員みたいに接してくれました。私が足をねんざしてしまって動けなかった時には、みんなが顔合わせる度に「大丈夫?」って薬持ってきてくれたり、失敗したりした時には「大丈夫だよ。」と背中をさすってくれたりと本当に温かい人たちに囲まれて過ごすことができました。
近所の人たちがみんな支え合って生きているかんじがすごくよくて、増えた体重の代わりに、幸せについて教えてもらうことができました。パン以上に生き方について違う目線で学んだ気がします。
パン屋でのプラクティクム(実習)について
プラクティクムはアウスビルドゥングの前段階なのですか?
お試し期間で、ちゃんとやっていけるのかを確認する期間です。
パン屋さんはみんなで話しながら仕事をするので、愛嬌があるかというのも見られるみたいです。
未経験ではどういうことから始めるのですか?
グレーミッツでは、パンの型に油を塗って、みんなが生地をこねているところにひたすらパン型を出していく仕事でした。下準備みたいなことばかりで、パン生地には全然触れていませんでした。2カ月間ひたすら、準備、洗い物、掃除でした。
たまにアウスビルドゥングの子が「もっとパン生地触ったほうがいいよ」ってマイスターがいないときに練習させてくれましたが、マイスターは「早く早く、こっちやって」と準備の仕事ばかりでした。パン作りを習うというよりは、職員の下っ端として使われているかんじでした。
マイスターによって、お店によっても仕事の内容も全く違うみたいです。学んでほしいからどんどんやってみなよ、というマイスターと、こっぴどくこき使われてどんどん人が辞めていくみたいなところもあるみたいです。それも運ですね。
今いるところでは、入った初日からパン生地に触らせてくれました。いまでも私が躊躇していると「もっとやってやって!こうやるんだよ」って教えてくれるので毎日パン生地に触れます。
パン作りは見ているだけでは全然上手にならないですし、触って覚えるので、今のところは全然充実度が違います。今のマイスターは若い方で、みんなにどんどん教えたいタイプの人だから、学べることが多くてすごく嬉しいです。
アウスビルドゥングはいつから?何人でするのですか?
アウスビルドゥング先によって違うかもしれませんが、私は8月からだと言われました。
今の修行先は私1人です。すでにゲゼレが3人いるので。
偶然にもゲゼレのうち1人は日本人の女性です。もう8年も働いている方なので、分からないことを教えてもらえて、すごく優しい方で心強いです。
ドイツ語だけだと言われていることの半分も理解できないこともあるので、そういう時は日本語で確認できるのもすごく恵まれています。
勤務時間を教えてください
朝が早いので、お昼前には仕事が終わって午後は自由です。早い時には8:00に終わって、遅い時は10:00~11:00です。
勤務時間6時間て短く思いますけど、パン生地は重いしすごく大変です。パンは男の人の仕事って聞いたことがありましたけど、本当にそうなんだと実感しています。
先日、職場の男の人が休んだときにその分を残りのみんなで分担して7時間働いたときはクタクタでした。生地を混ぜるだけでも10キロもあるんです。石窯を使っているので、それ用の薪を運ぶのも力仕事ですし、毎日腕の筋トレをしているみたいです。